東京高等裁判所 昭和30年(ネ)680号 判決 1956年10月01日
第一審原告 安川寛
第一審被告 西川幸吉 外九名
主文
原判決を左のとおり変更する。
一、第一審被告吉田健一は第一審原告に対し昭和二七年八月二五日より同年一二月三一日に至るまで一カ月金一万六六三〇円の割合による金員を支払え。
二、第一審被告西川幸吉は第一審原告に対し別紙<省略>物件目録記載の建物を収去して、その敷地たる同目録記載の土地を明渡し、且昭和二九年一〇月二七日より右土地明渡ずみに至るまで一カ月金一万六六三〇円の割合による金員を支払え。
三、第一審被告株式会社富士商店、株式会社尚雅堂、株式会社日光商会、竹村殖利、株式会社ベルモード、株式会社月光荘、西川建設株式会社は第一審原告に対し、それぞれ別紙物件目録記載の建物の内別紙占有部分目録記載の各占有部分から退去してその敷地たる別紙物件目録記載の土地を明渡せ。
四、第一審被告吉田健一に対する第一審原告のその余の請求及び第一審被告井上春吉に対する第一審原告の請求を棄却する。
五、訴訟費用は第一、二審とも、第一審原告と第一審被告井上春吉との間に生じた分は第一審原告の負担とし、その余の第一審被告等との間に生じた分は、同第一審被告等の負担とする。
六、この判決は第一審原告勝訴の部分に限り、第一審原告において、担保として第一審被告吉田健一に対し金二万円、第一審被告西川幸吉に対し金百万円、その余の第一審被告等(但し第一審被告井上春吉を除く)に対しそれぞれ金五万円宛を供託するときは、仮に執行することができる。
事実
第一審原告(以下単に原告と称する。)訴訟代理人は、主文二、三と同旨及び「第一審被告(以下単に被告と称する。)吉田健一は原告に対し昭和二七年八月二五日より昭和二九年一〇月二六日に至るまで一カ月金一万六、六三〇円の割合による金員を支払うべし、被告井上春吉は原告に対し、別紙物件目録記載の建物についてなした東京法務局昭和二七年四月八日受附第三八五七号代物弁済による所有権移転請求権保全のための仮登記の抹消登記手続をなすべし。訴訟費用は第一、二審とも被告等の負担とする。」との判決並びに被告井上を除くその余の被告等に対し仮執行の宣言を求め、なお被告西川幸吉の控訴を棄却するとの判決を求め、被告等各訴訟代理人はいずれも原告の控訴を棄却するとの判決並びに被告西川幸吉訴訟代理人は「原判決中同被告敗訴の部分を取消す。原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする。」との判決を求めた。
原告訴訟代理人は、原告の請求原因及び被告等の答弁に対する再答弁として、次のとおり述べた。
一、別紙物件目録記載の土地は原告の所有であるところ、被告吉田健一は原告に対抗しうべきなんらの権原なくして、昭和二七年八月二五日以降昭和二九年一〇月二六日まで右地上に別紙物件目録記載の建物を所有して不法に右土地を占有し、よつて原告の所有権を侵害し、原告に対し相当賃料たる一カ月金一万六、六三〇円の割合による損害を蒙らしめた。
二、被告西川幸吉は原告に対抗しうべきなんらの権原がないのに、昭和二九年一〇月二七日以降現在に至るまで、右土地の上に前記建物を所有して本件土地を占有し、よつて原告に対し一カ月金一万六、六三〇円の割合による賃料相当の損害を蒙らしめている。
よつて、原告は被告吉田健一、西川幸吉に対し前申立の通りの請求をなすものである。
三、被告井上春吉は本件建物につき東京法務局昭和二七年四月八日受附第三八五七号を以て、債権者を被告井上春吉、債務者を被告西川幸吉、債権額金四五〇万円、弁済期昭和二七年二月末日とした貸金債務を期日に弁済しないときは代物弁済として本件建物の所有権を移転すべき請求権保全の仮登記をした。しかるに、本件建物がその所有者たる被告西川幸吉において、その敷地たる本件土地を不法に占有しているため、原告に対し右建物を収去すべきものである以上、被告井上春吉の右仮登記も土地所有者たる原告に対抗できないのであり、そのような対抗できない登記を抹消せしむべき権利を原告は有するものと解せられるので、被告井上春吉に対し、右仮登記の抹消登記手続をなすべきことを求めるものである。
四、その余の被告等はそれぞれ本件建物中別紙占有部分目録記載の部分を占有してその敷地を不法に占有しているから、原告は右被告等に対し、占有部分から退去してその敷地を明渡すべきことを求める。
五、被告西川幸吉外六名訴訟代理人主張の占有権原を否認する。尤も原告は昭和二一年一一月頃被告西川幸吉に対し、本件土地を建築材料置場に使用することを目的として、賃料一カ月金四〇〇円、原告の請求あるときは直ちに明渡す約定で賃貸したことはあるが、昭和二五年一一月頃原告及び被告西川幸吉合意の上右賃貸借契約を解除した。
六、被告株式会社日光商会外二名訴訟代理人の主張事実中、原告が本件土地を昭和二二年一〇月一日訴外株式会社安川電機製作所に対し、普通建物所有の目的で賃貸し、同訴外会社が同日これを訴外有限会社東会館に転貸し、右転貸につき原告が承諾を与えたことはこれを認めるが、その余の事実は争う。
被告西川幸吉外六名訴訟代理人は答弁として次のとおり述べた。
一、本件土地が原告の所有であること、被告西川幸吉が昭和二九年一〇月二六日以前から本件土地をその地上に本件建物を所有して占有していること、被告井上春吉が原告主張の仮登記をしたこと、被告株式会社富士商店、株式会社ベルモード、株式会社月光荘、西川建設株式会社等が原告主張の如く、それぞれ本件建物の一部を占有してその敷地を占有していることは、これを認めるが、その余の原告主張事実を否認する。
二、被告西川幸吉は昭和二一年一一月一日より本件土地を、原告から、普通建物所有の目的をもつて、期限の定めなく、賃料一カ月金四〇〇円毎月末日払の約定で賃借しているものである。また被告株式会社富士商店、株式会社ベルモード、同月光荘、西川建設株式会社は、被告西川幸吉が権原に基いて本件地上に所有している本件建物の一部を賃借占有しているものである。
三、なお被告西川幸吉は、昭和二七年八月二五日、被告吉田健一に対して負担する債務金六七〇万円のために、本件建物を売渡担保の目的で一時被告吉田の所有名義に変更したことはあるが、昭和二七年一一月三〇日その所有名義を取戻し、昭和二九年一〇月二六日その旨の登記をした。
被告株式会社日光商会外二名訴訟代理人は、答弁として次のとおり陳述した。
一、本件土地が原告の所有であること、被告株式会社日光商会、株式会社尚雅堂、竹村殖利等が、原告主張の如く、それぞれ本件建物の一部を占有してその敷地を占有していることはこれを認めるが、その余の原告主張の事実を否認する。
二、本件土地は、原告が昭和二二年一〇月一日これを訴外株式会社安川電機製作所に対し普通建物所有の目的で賃貸し、同会社は同日原告の承諾を得て、これを訴外有限会社東会館に転貸したので、右東会館は本件地上に本件建物を建築所有しているところ、被告株式会社尚雅堂は右建物の一部を昭和二三年一二月頃東会館から賃借したものである。また、被告竹村殖利は、昭和二四年六月頃右建物の一部を東会館から賃借し、被告株式会社日光商会は昭和二五年一二月右建物の一部を訴外阿部透(同人は東会館より賃借)から、東会館の承諾を得て転借したものである。
(証拠関係)省略
理由
一、本件土地が原告の所有であること、及び本件土地の上に本件建物の存在することは当事者間に争がない。
二、よつてまず、被告吉田健一に対する原告の請求について考えるに、成立に争のない甲第二号証、乙第一、二号証、乙第七号証、原審における被告西川幸吉本人尋問の結果を綜合すれば、本件建物はもと被告西川幸吉の所有であつたが、同被告は昭和二七年五月一〇日被告吉田健一から金六七〇万円を利息年一割、弁済期同年一二月末日の約定で借受け、右債務の担保として本件建物を被告吉田健一に売渡し、同年八月二五日売買を原因とする所有権移転登記手続を了したところ、その後同年一一月から一二月に亘つて被告西川幸吉は右債務全額を被告吉田に返済したので、本件建物の所有権は遅くとも昭和二七年一二月末日には被告西川幸吉に復帰したこと、よつて被告西川幸吉はその移転登記手続をしようとしたが、当時本件建物につき原告のため処分禁止の仮処分登記がなされていたので、その目的を果すことができず、昭和二九年一〇月二六日に至り漸やく移転登記を受けるに至つたことが認められ、これをくつがえすべきなんらの証拠はない。しからば、被告吉田健一は少くとも昭和二七年八月二五日から同年一二月末日まで、本件土地の上に本件建物を所有することによつて、本件土地を占有していたものというべく(昭和二八年一月一日から昭和二九年一〇月二六日被告西川幸吉に移転登記がなされるまでの間、本件建物の登記簿上の所有名義が被告吉田健一にあつたとしても、被告吉田健一はその間本件建物の所有権を失つたのであるから、本件土地を占有していたものとは言い得ない。)、右土地占有につき原告に対抗しうべき権原あることについては、なんらの主張も立証もないから、被告吉田は前示期間不法に本件土地を占有していたものというべく、従つて右不法占有により、土地所有者たる原告の蒙つた損害を賠償すべき義務があるものであり、その損害は特別の事情のない限り、本件土地の相当賃料に該当するものというべきところ、原審証人久保友作の証言及び同証言により成立を認めることのできる甲第六号証を考え合わせれば、後に認定する如く原告は昭和二二年一〇月一日本件土地を訴外株式会社安川電機製作所に賃貸し、同日同訴外会社はこれを訴外有限会社東会館に転貸したが、昭和二七年七月以降における右転貸料は一カ月金一万六、六三〇円であつたことが認められるので、右賃料額を以て当時における本件土地の相当賃料額と認定するのを相当とする。しからば、被告吉田は原告に対し、昭和二七年八月二五日より同年一二月末日まで一カ月金一万六、六三〇円の割合による損害金を支払うべき義務があるが、同被告に対する原告のその余の損害金の請求は理由がないから、これを棄却すべきものといわなければならない。
三、次に被告西川幸吉に対する原告の請求について考えるに、被告西川幸吉が昭和二九年一〇月二六日以前から本件土地をその地上に本件建物を所有することにより占有していることは当事者間に争のないところである。被告西川幸吉は、右土地占有の権原につき、本件土地は同被告において昭和二一年一一月一日より普通建物所有の目的をもつて、期限の定めなく、賃料一カ月金四〇〇円毎月末日払の約定で、原告から賃借しているものであると主張し、原告はこれを否認し、ただ昭和二一年一一月頃原告は被告西川に対し本件土地を建築材料置場に使用する目的をもつて、賃料一カ月金四〇〇円、原告の請求あるときは直ちに明渡す約定で賃貸したことはあるが、昭和二五年一一月頃合意の上右賃貸借契約を解除したと主張するので、この点について判断する。
原審証人松本幹一郎、同松永英一、同久保友作、原審並びに当審証人鈴江政雄の各証言、右松本証人の証言によつて成立が認められる甲第四、六号証、久保証人の証言によつて成立が認められる甲第五号証に成立に争のない甲第七、八号証及び当審における原告本人尋問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、原告は昭和二一年一一月頃被告西川に対し、本件土地を建築業者である同人の建築材料置場にあてる目的をもつて、賃料一カ月金四〇〇円、毎月末日払、原告の請求あるときは、直ちに明渡すことの約定で賃貸したのであるが、昭和二二年一〇月頃、原告が社長に就任している訴外株式会社安川電機製作所の関係者間において、本件土地上に木造二階建店舖兼事務所向建物を建築し、その階下の一部を右会社のサービス・ステーシヨンに、二階の一部を同会社関係の客の接待用及び社員の寮に、他の部分を一般に貸店舖、貸事務所として賃貸する計画が立案され、当時土地賃借人であつた被告西川をも加えて協議の末、右建物管理のため訴外有限会社東会館を設立し、訴外久保友作が代表取締役、被告西川外一名が取締役に就任し、建築施工は被告西川が建築業者であり、従来本件土地を使用していた関係で、同人に建築申請施工手続の一切を担当させること、建築資金は訴外久保友作が金一〇〇万円を拠出し、且、訴外安川電機製作所から融資をうけて久保名義で金二〇〇万円を拠出するの外、被告西川が金一〇〇万円を拠出すること、建築完成の上は右建物を訴外東会館の所有とすることの協議が整い、昭和二三年一月二三日訴外有限会社東会館の設立登記がなされ(定款作成は昭和二二年一一月一七日、その認証は同年一二月一九日)、昭和二三年一月一〇日被告西川名義で建築申請をなし、昭和二四年一一月本件建物が完成したのであるが、前記東会館設立の協議が整つた昭和二二年一一月頃原告が本件土地を訴外安川電機製作所に賃貸し、同会社は同日これを原告の承諾を得て訴外東会館に期間同日から二十年、賃料一カ月金五二〇円、毎年九月三〇日に一カ年分前払の約定で転貸し、昭和二七年四月以降は一カ月の賃料を金一万六、六三〇円に増額した。
以上のとおり認められ、右認定の事実によつて考えれば、原告が昭和二一年一一月頃本件土地を被告西川に賃貸したことがあるけれども、それは原告主張のとおり、建築材料置場に使用する目的であつたところ、昭和二二年一〇月一日頃有限会社東会館設立の議が整うと同時に、原告及び被告西川は合意の上右土地賃貸借契約を解除したものと認めるのを相当とする。尤も、右協議に基いて建築せられた本件建物の所有権が被告西川に在ることは、原告が本訴においてこれを認めるところであるから、前記土地賃貸借契約の合意解除後も被告西川に本件土地使用の権限があるかのような疑を生ずるのであるが、前認定のとおり、本件建物はその完成後これを訴外東会館の所有とする旨の協議があつたのに、被告西川は本件建物の完成後右建物を自己の所有であると主張し、昭和二五年九月一五日被告西川名義にその所有権保存登記をなすに至つたものであることは、前顕各証拠を綜合すれば、これを認めうるところであつて、原告もやむなく当審に至り、本件建物が被告西川の所有であることを認めたに止まり原告が被告西川に前記賃貸借の合意解除後本件土地使用を許容したものでないことは弁論の全趣旨に照らし明らかである。成立に争のない乙第五号証(賃料領収証)によると、被告西川が原告に昭和二二年五月から十月分まで一カ月四〇〇円宛の本件土地の賃料を支払つた旨の記載と「昭和二二年一一月分から昭和二三年四月分まで六カ月分の賃料二、四〇〇円を被告西川が松本宅え渡済」なる趣旨の記載があるけれども、右乙第五号証に原告の賃料領収済の印のあるのは昭和二二年一〇月分までであつて、爾後の分については捺印がないこと明らかであるばかりでなく、「昭和二二年一一月から昭和二三年四月分まで六カ月分の賃料渡済」の文字は、被告西川が後日記載したもので、原告において右賃料を領収したことがないことは、原審証人松本幹一郎の証言及び原審並びに当審における被告西川幸吉本人尋問の結果によりこれを認めることができる(西川本人の供述中右賃料を松本幹一郎に支払つた旨の部分は信用することができない。)から、右乙第五号証をもつては、いまだ前記認定をくつがえし、被告西川の主張を認めるに足りない。また成立に争のない乙第三号証(建物建築許可証)同第四号証(土地使用承諾書)によると、被告西川が昭和二三年一月一〇日附の建築許可申請書をもつて、東京都知事に対し、本件建物建築許可の申請をなし、同人宛に許可が与えられていること、及び原告が右一月一〇日附で被告西川に本件土地使用承諾許可を与えていることが認められるけれども、前記認定の事実と対照して考えると、建築申請を被告西川名義でなしたのは、単に建築施工手続を被告西川に担当させて置いたためであつて、そのため原告も本件土地の使用承諾書を被告西川に交付したと考えられるので、右証拠をもつて、被告西川主張の賃貸借の事実を認める証拠となし難い。また乙第六号証その他被告西川提出の各書証をもつては、いまだ被告西川主張の土地賃貸借の事実を認めるに足りないし、被告西川の主張に添う原審における被告井上春吉本人尋問の結果及び原審並びに当審における被告西川幸吉本人尋問の結果はいずれもこれを措信し難い。
しからば、他に被告西川が原告に対抗しうる権原を主張並びに立証しないかぎり、被告西川は不法に本件土地を占有して、原告の所有権を侵害しているものといわなければならないから、被告西川は原告に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡す義務があると共に、昭和二九年一〇月二七日より右土地明渡済に至るまで、本件土地の相当賃料額たる一カ月金一万六、六三〇円の割合による損害金を支払うべき義務があるというべく、原告の被告西川に対する本訴請求は正当であるから、これを認容すべきものといわなければならない。
四、次に被告井上春吉に対する原告の請求について判断する。
被告井上春吉が、原告主張のように、本件建物につき代物弁済による所有権移転請求権保全の仮登記をなしたことは、当事者間に争がなく、本件建物がその所有者たる被告西川幸吉において、その敷地たる本件土地を不法に占有しているため、原告に対し、収去すべきものであることは、前認定のとおりであるけれども、被告井上の右仮登記が存在するために、原告の土地所有権に基く本件建物収去土地明渡の強制執行が妨げられるものとは考えられないし、被告井上が原告に対し右仮登記を抹消すべき義務あるものとは解することができない。もし、被告井上が後日右仮登記を本登記に改めた場合において、原告としては、右強制執行をなすため、或は被告井上に対する承継執行文を得るとかまたは新たに被告井上に対する債務名義を得なければならなくなるであろうけれども、単にそれだけの理由で、被告井上が本件建物につき正当に取得した代物弁済による所有権移転請求権を喪失せねばならぬ根拠はないし、本件建物がいまだ収去により解崩されないのに被告井上が右請求権保全の仮登記を抹消せねばならぬ義務あるものとは到底解することができないから、被告井上に対する原告の請求は失当として棄却すべきものといわなければならない。
五、次に被告株式会社富士商店、株式会社ベルモード、株式会社月光荘、西川建設株式会社に対する原告の請求について判断する。
右被告等が本件建物のうち別紙占有部分目録記載の部分をそれぞれ占有してその敷地たる本件土地を占有していることは、当事者間に争がない。右被告等は、被告西川からその所有にかかる本件建物の一部を賃借占有している旨主張するが、被告西川が本件土地を不法に占有しているもので、原告に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡すべき義務あること、前認定のとおりである以上、たとえ右被告等が被告西川から右建物の一部を賃借したとしても正当の権原に基いて本件土地を占有しているものとはいい得ないから、右被告等は原告に対し、それぞれ本件建物の占有部分から退去して、その敷地たる本件土地を明渡すべき義務がある。
よつて、右被告等に対する原告の請求は正当であるから、これを認容すべきものとする。
六、次に被告株式会社日光商会、竹村殖利、株式会社尚雅堂に対する原告の請求について判断する。
右被告等が本件建物のうち別紙占有部分目録記載の部分をそれぞれ占有してその敷地たる本件土地を占有していることは、当事者間に争がなく、右被告等は、訴外有限会社東会館から、同訴外会社が正当の権原に基いて本件土地の上に所有する本件建物の各部分を賃借しているものであると主張するけれども本件建物の所有権が被告西川にあり、しかも被告西川に右建物を本件土地の上に所有し得る権原がないことは前認定の通りであり、右被告等の提出援用にかかる各証拠をもつてしても右認定を覆した上本件建物の所有権が訴外有限会社東会館にあることを認めることはできない。従つて東会館が本件土地に対し被告等の主張するように適法な転借権を有するとしても東会館が現状においてその転借権を行使しているものと解することはできない。従つて東会館の土地転借権の行使の結果として被告等が本件建物の一部づつを占有するものであるとの抗弁は容認できない。従つて右被告等に対する原告の本訴請求も正当であるから、これを認容すべきものとする。
七、以上の次第で、結局被告西川の本件控訴は理由はないが、原告の本件控訴は一部理由あることとなるから、原判決を主文一ないし四記載のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 角村克己 菊地庚子三 吉田豊)